近年、労働者不足は多くの業界で深刻な問題となっています。現場作業も例外ではありません。かつて就職氷河期には、ひとつの求人に10人、20人もの応募者が集まることも珍しくありませんでした。しかし今では、求人を出してもなかなか人が集まらないのが現実です。
このような状況の中、外国人労働者の皆さんに力を借りている現場も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、新たに加わった大切な仲間たちと道具を貸し借りする際に、通じなかった道具の名前についてご紹介したいと思います。
結構いいかげんな道具の名前
和製英語という言葉を聞いたことがありますか?いわゆる、日本で作られた英語ですね。
実は、日本で使われている工具の名称には、和製英語で呼ばれているものや、誤った認識のまま使われているものも多くあります。
事業所によっても異なりますが、少ない道具で済むところもあれば、何百種類もの道具を使いこなして作業を行うところもあります。
今回は、そのような中でも特に代表的な手工具5つについて、日本語と英語の違いや正しい名称をご紹介します。
1.プラスドライバー、マイナスドライバー

プラスドライバー → フィリップス・スクリュードライバー
マイナスドライバー → フラットヘッド・スクリュードライバー
ちなみに、「ドライバー」は英語では「運転手」を意味します。
グリップが付いていてネジを回す道具は、基本的に スクリュードライバー と呼ばれます。
それに加えて、先端(ビット)の形状によって「○○スクリュードライバー」と呼び分けられているのです。
2.モンキーレンチ

いかにも英語っぽい名前ですが、「モンキーレンチ」は和製英語の代表的な道具です。
正しくは アジャスタブルレンチ といいます。
日本では「モンキーレンチ」という呼び名が主流ですが、実はこの工具には向きがあることをご存知でしたか?
モンキーのジョー(可動側)がボルトやナットを締める際に内側に来るように使うのが正しい使い方です。
もちろん、緩めるときは、その逆になるので、モンキーレンチを裏返して使用します。
この使い方を心がけることで、モンキーレンチを長持ちさせることができます。
3.ソケットレンチ、ラチェットハンドル
実は、「ソケットレンチ」や「ラチェットハンドル」という言い方も十分通じます。
ただし、「ラチェットハンドル」よりも「ドライブハンドル」や「ドライブレンチ」といった名称のほうが、英語圏ではより一般的です。カタログには「ソケットレンチ」と記載されていても、実際には地域や現場によって呼び方が変わることもあります。
あくまでも日本では「ソケットレンチセット」が正式な呼び名です。
4.スパナ、メガネレンチ

スパナ → (Two Head) Open End Wrenches
メガネレンチ → Two Head Box Wrenches
スパナは、英語では「オープンエンドレンチ」と呼ばれます。両側が開いているものは、「Two Head Open End Wrenches」となります。
ちなみに「スパナ」という言葉は、イギリス英語の spanner(ねじる)から来ているそうです。
一方、「メガネレンチ」は両端が輪になっており、見た目がメガネのようであることからそう呼ばれています。英語では「Two Head Box Wrenches」と言います。
どちらも少し長めの名前ですね。
ここでひとつ覚えておいてほしいことがあります。
比較的年配の方に多いのですが、「ソケットレンチセット」のことを「ボックスレンチ」あるいは単に「ボックス」と呼ぶ方がいらっしゃいます。おそらく「箱に入っている道具だから」という感覚で使っているようです。
もちろん、これが間違っているわけではありませんが、正確ではないということだけ、心の中でそっとつぶやいてください。角が立ちますので…(汗)
ちなみに、コンビネーションレンチは日本語も英語も同じです。
5.ペンチ、ニッパー

ペンチ → Wire Gripping and Cutting Pliers
ニッパー → Wire Cutters
「ペンチ」の英語名、ちょっと長いですよね。
実際には、フルネームで言う人は少ないですが、「グリッピングプライヤー」と呼んでいる方もいました。
また、「ニッパー」は英語で「ワイヤーカッター」といいます。
ここでいう「ワイヤー」は、電線(銅線)を指します。荷締めや吊り具に使うような、ワイヤーではないので注意が必要です。電気工事士の方ならご存知かと思いますが、ニッパーは銅線を切るための道具です。
鉄やステンレスなど硬い素材を切ってしまうと、刃が欠けてしまう恐れがあります。
それぞれの材質に合った道具を正しく使いましょう。
翻訳ツールに頼りすぎないために
スマホの翻訳機能は便利だけど…
最近のスマートフォンの翻訳機能は非常に高性能になっており、日常会話レベルであれば問題なくコミュニケーションが取れるほど進化しています。
しかしながら、音声入力が不安定だったり、結局は手動で文字入力が必要だったりと、まだまだ発展途上な面もあります。
また、職場によっては勤務中の携帯電話の持ち込みが禁止されている場合もあります。
そうなると、スマホに頼らずとも**「道具の正しい名称」**を知っているかどうかが、非常に重要になってくるのです。
道具の名前を間違えると、どうなる?
スマホが使えない場面で、もしも道具の名前を誤って伝えてしまったらどうなるでしょうか?
たとえば、本人は真面目に伝えているつもりでも、誤った名称によって違う道具が手渡されてしまうことがあるかもしれません。「たかが言い間違い」と思う方もいるかもしれませんが、現場においてはその小さなミスが、大きなトラブルの引き金になることがあります。
小さなミスが招く大事故 ― ハインリッヒの法則
ハインリッヒの法則をご存知でしょうか?
これは、1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故、そしてそのさらに背後には300件のヒヤリ・ハット(ヒヤッとしたり、ハッとした出来事)があるという経験則です。
たとえば、道具の名称を誤認したまま、異なる工具で重要なメンテナンス作業を行ってしまった場合、どうなるでしょう?
・必要以上にネジを締め付けてしまう
・逆に、締め付けが足りない
・適した工具でなかったために部品を傷つけてしまう
…こうした事態が起きる可能性は十分にあり得ます。
そしてそれは、設備の故障や事故、さらには人的被害につながることも考えられるのです。
「知っているかどうか」が安全の分かれ道
使用する道具の種類が多い事業所や、外国人労働者が多い職場では、道具に関する正確な知識を持っているかどうかが、現場の安全や作業効率に直結します。
現場では、定期的に道具の名称や使い方について確認する仕組みを設けることが重要です。
たとえ熟練者であっても、思い込みや慣れによる誤認識がないとは言い切れません。
また、新しく加わった仲間にとっても、安心して作業ができる環境づくりにつながります。
まとめ:正しい名称を「知っていること」の大切さ
今回の記事で一番お伝えしたいことは、まずは日本語で構いませんので、「道具の正しい名前」と「基本的な知識」を身につけてほしいということです。
スマホやPCが常に使える環境にいる方は、その都度検索して確認することができますが、現場ではそうはいかないことも多々あります。
そういった場面では、やはり覚えるしかありません。
そして、最初に誤った名称や認識を覚えてしまうと、その後の作業や判断がすべて間違った方向に進んでしまう可能性があります。
「言葉の間違いが、道具の間違いに繋がり、やがて大きな事故を引き起こしてしまう」—その危険性を、ぜひ心に留めておいてください。
小さな違和感やズレに気づいたら、それを放置せずに「正しい知識」へと修正していくこと。
その積み重ねが、安全で信頼できる現場づくりに繋がっていくのです。
今日も一日、ご安全に