しごとの図書室

膨張タンクを点検しよう!…ところで、膨張タンクってなに?

はじめに

今回はちょっと専門的な、「膨張タンク」についてです。
空調設備や給湯設備を点検される方なら見たことがあるのではないでしょうか?
密閉式の冷温水循環システムなどに用いられている重要な部品で、水の体積変化を吸収して、配管や機器への圧力負担を軽減する装置です。
そんな膨張タンクという普段は特に触ることが無い部品について見ていきましょう。

膨張タンクとは?

夏なら冷水、冬なら温水を利用した空調システムにおいて、膨張タンクは不可欠な構成要素です。その主な役割は、冷温水の温度変化に伴う体積膨張や収縮を吸収し、システム内の圧力を安全かつ安定した範囲に保つことが目的です。

水は温度が上がると膨張し、密閉されたシステム内では圧力が急激に上昇する可能性があります。膨張タンクは、その逃げ場として機能し、過剰な圧力による配管や機器の破損を防ぎます。反対に、水が冷却されて収縮する際には、タンク内の空気が圧力低下を抑える働きをし、負圧やキャビテーションのリスクを軽減します。

また、タンクの内部には水と空気を隔てる「ブラダー(袋)やダイヤフラム(隔膜)」が設けられており、膨張した水が直接空気に触れないようになっています。これにより、タンク内部の腐食や水浸しといったトラブルを防止します。これらのタンクは通常、工場出荷時に空気側の圧力(プレチャージ圧)が設定されていますが、現場でシステムの運転条件に応じて調整することも可能です。

膨張タンクには主に以下の3種類があります:

  • 圧縮タンク:最も古い形式で、空気と水が直接接触します。圧力調整が難しく、空気の補充管理が必要です。(※圧縮タンクについての説明は行いません)
  • ブラダータンク:内部の風船状のゴムが水と空気を分離し、メンテナンス性に優れています。
  • ダイヤフラムタンク:ダイヤフラムと呼ばれる板状のゴム板により、水と空気を分け、安定した性能と耐久性が特徴です。

近年では、大気と接する開放型の膨張タンクは次第に姿を消し、代わって密閉型の膨張タンクが主流となっています。密閉型は、システム内の圧力を安定して維持できるため、ポンプの性能を最大限に引き出すとともに、水質管理の面でも優れた効果を発揮します。特に給湯設備においては、外気との接触を防ぐことで衛生面における利点が大きく、重要な選定要素となります。

こうした膨張タンクを適切に選定するためには、システム全体の水量、温度変化の幅、許容される最大圧力など、複数の要素を考慮した正確なサイジングが不可欠です。タンクの容量が小さすぎる場合は、温度上昇時の膨張水を吸収しきれず、圧力の急上昇を招く可能性があります。一方で、大きすぎるタンクは設置スペースやコストの面で非効率となることがあります。

また、タンク内の空気室にあらかじめ設定されている初期充填圧(プレチャージ圧)についても、システムの運転圧力に応じて適切に調整することが重要です。これにより、膨張タンクの性能を十分に引き出し、安全かつ効率的なシステム運用が可能となります。

膨張タンクの仕組み(基本構造と動作)

ダイヤフラム式の膨張タンクを例に見てみましょう。

基本構造

  • タンクの中は「水側」と「空気(または窒素)側」に分かれており、その間に「ゴム製のダイヤフラム(膜)」があります。
  • 空気側にはあらかじめ一定の圧力で空気が封入されています。これをプレチャージ圧と、いいます。

動作の流れ

  1. システム内の水温が上昇すると、膨張して体積が増えます。
  2. 体積が大きくなった水が膨張タンクに流れ込むと、ダイヤフラムを押して空気側を圧縮します。
  3. これにより、システム全体の圧力上昇を緩和できます。
  4. 逆に、水温が下がって体積が減ると、空気側がダイヤフラムを押し戻して水を送り返すことでシステム内の圧力が保たれます。

そもそも、なぜ必要なの?

密閉式のシステムでは、温度変化に伴う体積の変化に対して圧力の逃げ場がありません。そのため、膨張タンクには“クッション”としての重要な役割が求められます。

では、そのクッションが存在しなかった場合、何が起こるのでしょうか?

逃げ場を失った圧力は、システム内で衝撃波のように作用し、配管だけでなく、継手・バルブ・ポンプ・熱交換器など、さまざまな部品に大きな負荷をかけてしまうおそれがあります。そんな、いつ破裂してもおかしくないようなシステムがビルの中にあると想うと、ゾッとしませんか?

そう考えると、膨張タンクはまさに「縁の下の力持ち」……いえ、それどころか「縁の下の力持ちのさらに下で支える存在」と言えるかもしれません。

システムの例

・溶解栓が付いている場合のシステムの例になります。(主に温水)
溶解栓(可用栓)は温度が上がりすぎると自動でお湯を逃がす安全弁です。
異常な温度上昇に対して、配管やタンクが破裂したり、重大な事故にを未然に防ぐ為の「最後の砦」として働きます。

ダイヤフラムとブラダーの違いとは?

「ダイヤフラム」と「ブラダー」は実際には同じものを指していることが多いですが、構造や用途によって呼び名が異なる場合があります。

ダイヤフラムとブラダーの違い

  1. ダイヤフラム(Diaphragm)
    • 一般的に平らな膜状のゴム部品で、圧力変化に応じて上下や前後に動くことで容積を調整する機能を持ちます
    • 主に圧力を均等に受け止め、伝達する役割を果たします
    • 給湯設備に使われていることが多い
  2. ブラダー(Bladder)
    • 袋状や風船状のゴム部品で、膨らんだり縮んだりすることで容積を変化させます
    • 水や空気などの流体を直接包み込む形状であることが多いです
    • 空調設備に用いられていることが多い

用途による使い分け

簡単に説明すると、以下のように使い分けられています。

  • ダイヤフラム:家庭用給湯設備に多く採用されており、平たいゴム膜(ダイヤフラム)を境に水の体積変化を吸収します。
  • ブラダー:冷温水式の空調設備に多く採用されており、内部のブラダーが膨張・収縮した水の体積変化を吸収します

実際の製品では、メーカーや業界の慣習によって呼び名が統一されていないこともあり、同じ構造のものでも会社によって呼び方が異なる場合があります。

膨張タンクの簡易的な点検方法

以下の操作を行う際は、設備の運転が停止していることを確認しましょう。

  1. タンクの圧力計を確認する。
  2. タンクに供給されているバルブ(給水バルブ)を締める
  3. ドレンバルブを開けて排水する
  4. 圧力計を確認する
  5. ドレンバルブを締める
  6. ②で締めたバルブを開ける

④の時に圧力計の針が0に下がってしまう場合、内部のゴムが破損している可能性がありますので、修理や、取り換えを検討して下さい。また圧力計が壊れている可能性もあるので、軽く衝撃を加えて圧力計の状態もチェックしておきましょう。

まとめ

冷温水を利用する空調システムにおいて、膨張タンクは温度変化に伴う水の体積変化を吸収し、システムの圧力を安定させるために不可欠な存在です。とくに密閉型膨張タンクは、圧力を安定させることで配管や機器の保護、水質管理、ポンプ性能の最大化など、システム全体の安全性と効率性に大きく貢献します。

タンク内部には「ブラダー」や「ダイヤフラム」によって水と空気が分離されており、システムのトラブルを防いでくれています。
また、用途に応じて使い分けられており、空調にはブラダー型、給湯にはダイヤフラム型が多く採用されています。ただし名称はメーカーや業種で呼び名が異なる場合があります。

膨張タンクを適切に選定・運用するには、水量、温度変化、最大圧力、プレチャージ圧など多くの条件を考慮したサイジングが重要です。点検も定期的に行い、ゴムの破損や圧力異常を早期に発見することで、より安全で長寿命な運用が可能となります。

まさに膨張タンクは、水や温水を使った密閉型のシステムを見えないところで支える「縁の下の力持ち」です。

今日も一日、ご安全に